冒頭、夜のボクシング・スタジアムの通路を駆けるゴージャスな服装の女と、それを追いかける男たちの仰角気味のショットから不穏な雰囲気が立ち込める。物語自体は、決して馬脚を現さないギャングのボスを追い詰める刑事という単純なものながら、刑事のボスへの執着にはどこか私情が絡んで、それが物語を陰湿なものにしている。補聴器を使った拷問、手下二人の関係や、情婦の恍惚の表情など、想像力を掻き立てる場面の数々。照明を極力絞って、陰影の深い画面を生み出した撮影の見事さは無論、ギャングのボスが決して相手の方を向かず、正面に向いて話をすることで自身の上位性を印象づける映像的演出、同じくボスが、今は手下だが元々はボスだった男をネチネチ言葉でいじめ、自分の器を思い知らせる場面など脚本も見事。怪人脚本家ヨーダン、ノワールの名カメラマン=オルトン、B級に徹した監督ルイスらが集結したギャング・ノワール傑作中の傑作。
ナンバーくじ操作であえて大当たりを出し、支払いに窮する中小の胴元を廃業に追いやり、業界を合理化しようとするギャング。その手先の悪徳弁護士には、小規模胴元をしている兄があった。苦労して自分を弁護士にしてくれた兄を救おうとするが……。誰もが悪人ながら完全な悪人はおらず、かつ誰もが報いを受けるという救いのなさに痺れる。ボスのアパートと兄の事務所の階段繋ぎ(しかも俯瞰・曲線と仰角・直線)、さらにラストの神話性を帯びた階段など印象的な階段の数々。監督、主演俳優ら左派映画人が集結し、社会批判にまで達したノワールの典型例。
舞台はシンガポール。地元のギャングから、ある男の動向調査を依頼された探偵。かつて愛した女の夫にして以前の友人だったその男が関わるのは核物理学者の誘拐、黒幕はその身代金として莫大な金を要求しようとしていた。熱気に煙る街並、階段での極端なアングル、女の部屋でのベッドの螺旋状の飾り越しのショットなど、いかにもノワールな画面から、後半は一転田舎の村を舞台とした人質救出アクションとなり、小粒ながら見どころの多い作品となっている。アルドリッチの長編二作目、ダン・デュリエと組んだTVシリーズ「チャイナ・スミス」のスピンオフ。
アル・カポネと思しきギャングのボスを脱税容疑で逮捕するべく奮闘する財務省調査員。ただしボスは顔すら描かれない。ギャングなきギャング映画。市民は報復を恐れて口をつぐみ、裏切ろうとした男たちは殺される。その殺しの場面の演出は時にあっけないほど簡潔(路上に散るポップコーンのみ)、時に息苦しいほど長く(殺されようとする父を叫びながら追う娘)、ルイスの多様な演出が冴える。マフィアから逃げてきて、息子を殺された移民の老婆が、逃げるのでなく戦うべきだったと語る場面で、孫娘の通訳を経ながらの訥々たる語りがもたらす感動。
雨の中、殺人現場に出くわした刑事。撃った男は警官を名乗ったが、偽警官だった。男を取り逃がした刑事は職務停止処分を受けるが、殺人事件の背景にあった、港湾ギャングの摘発のために特命を受ける。顔が知られていないボスに迫るべく、港湾労働者として潜入捜査に当たる刑事。刑事役のブロデリック・クロフォードをはじめ、チャールズ・ブロンソン、ネヴィル・ブランド、アーネスト・ボーグナインなど、強面が大量出演。蛍光塗料を使っての車の追跡、ボスの意外な正体、そのボスを取り逃してからのさらなる一ひねりの展開など見どころ多い作品。
自分を人に寄生して生きる薄汚いチンピラと認識する、場末の縄張り(その中心となる駅の高架下のパーラーが演劇的で素晴らしい)の一匹狼。その心の弱さを女に入れあげることで紛らせているが、既に敵対勢力は彼の縄張りを脅かしていた。悪に染まり切れないがゆえに自滅してゆく敗北主義的ギャング。今から見ればここまでネガティヴなギャングはいかにもノワール的に見えるが、紋切り型のギャング映画を期待した観客は失望したかもしれない。本作はキング兄弟が『犯罪王デリンジャー』の成功に気をよくして作ったギャング映画だが、興行的に大失敗した。
街を牛耳るギャング「オールド・マン」(最後まで画面に姿を現さない)の右腕(ロバート・ライアン)と、ギャング壊滅に邁進する警察署長(ロバート・ミッチャム)の闘い。ハワード・ヒューズ製作だけに、脚本の変更、数人の監督(中にニコラス・レイも含まれる)による演出で、若干ストーリー・テリングに難はあるが、癇癪持ちで、何かというと人を殴りにかかるライアンの陰鬱なキャラ造形、判事や検察の捜査官がギャング側の人間として警察に出入りし、堂々捜査を妨害する腐敗ぶりが印象的。28年のルイス・マイルストン監督の同題作のリメイク。
実在のギャング、ジョン・ディリンジャーが犯罪者となり、あっという間にのし上がり、あっという間に死ぬまでを描く。その速度感に加え、フリッツ・ラング『暗黒街の弾痕』の一部がぬけぬけと流用される辺りもいかにもB級映画。ギャング映画は30年代に一世を風靡するが、業界の申し合わせ=ヘイズ・コードでA級映画としては生命を絶たれる。しかしB級会社はその限りでなく、製作のキング兄弟、脚本のヨーダンはあっさり無視して大ヒット。むっつり顔のローレンス・ティアニーはギャングがはまり役となり、その後もB級映画でギャングを演じる。
ある刑事の自殺から、その自殺に不審を訴える女の殺害、同僚刑事の捜査、その家族の殺害と、事態が悪い方に歯車のように進む辺りはご都合主義的にも見えるが、有無を言わせぬ成り行きはラング的な宿命論の表れでもある。ギャングに妻を爆殺された刑事の復讐譚としてある意味定型なのだが、自殺した刑事の妻(ジャネット・ノーラン)、情報提供する自動車修理工場の足の悪い老嬢、賭けダイスでリー・マーヴィンに虐められる女、そして何よりマーヴィンの情婦役グロリア・グレアムなど、女性が物語展開の転換点を作る、珍しい女性上位のギャング映画という側面も注目。
ケガがもとで引退したボクサー、今はしがないタクシー運転手。贅沢な生活を望む妻は彼に愛想をつかし、宝石泥棒を愛人にしている。海外逃亡を図る宝石泥棒は、愛人を厄介払いで殺害、その罪を主人公になすりつけようとする。一方宝石泥棒の金を狙うギャングも絡んできて……。主人公が冤罪を晴らすのが主筋ではあるが、主人公の知人で、彼に好意を抱く女優(イヴリン・キース)が、数々の見どころで主人公を食ってしまうのが本作の面白いところ。監督のフィル・カールソンには、ギャングと町の住民の戦いを描く傑作社会派ノワール『無警察地帯』がある。
アンソニー・マン自身による潜入捜査ものの傑作『Tメン』のセルフ・リメイク。向こうは紙幣密造だったが、こちらはメキシコからの不法移民が題材。移民に偽装したメキシコ人捜査官と、偽造入国証の原本を餌にアメリカ側から潜入する捜査官。後者を前者が見殺しにせざるを得ない場面が見どころとなる点『Tメン』同様ながら、こちらは農耕機で轢くというえげつなさ。ラストも流砂での死闘で、かなり残酷度が増している。都会が舞台になることが多いノワールにあって、メキシコ国境が舞台、また製作元が当時最もゴージャスな映画を作るMGMなのも例外的。
国外追放になったギャングが、整形手術で自分と似た背格好の男に成り代わり、アメリカに帰還しようとする計画に巻き込まれた男。彼が夜の酒場でミステリアスな美女に出会うあたりはいかにもノワールだが、メキシコに行って以降はコメディ調、別な映画が継ぎ足されたようになる。その立役者は映画俳優役のヴィンセント・プライスで、主人公が殺されようとしているところを知った彼は、映画のヒーローを実地で行けると意気揚々、映画の後半では主人公を食う活躍を見せる。ハワード・ヒューズ製作と聞けばそれも納得されよう。後半部の監督はフライシャー。
エドガー・J・フーバーのメッセージが映され、FBIの捜査の手続きが紹介される冒頭から、劇が始まってからもナレーションで語りが進められるドキュメンタリー風のノワール。セミ・ドキュメンタリーとして知られるジュールス・ダッシン『裸の街』と同年作。リチャード・ウィドマークを頭とするギャングに潜入するFBI捜査官。しかし警察内部に内通者がいて、彼の正体がばれ、彼の身に危険が迫る。武器が隠される廃倉庫や、ラストの強盗と対決の舞台となる工場の、陰影深いモノクロ画面はノワールの真骨頂(撮影ジョゼフ・マクドナルド)。
更生して妻と共にまじめに暮らす男のもとに、脱獄したギャング一味が現れ、銀行強盗に協力するよう迫る。一味には妻を人質に取られ、目をつけられた刑事には初めから一味と結託していると頭ごなしに決めつけられ、窮地に陥った男は……。蛍光灯で照らされた深夜の警察署の殺伐とした雰囲気、ロケ撮影された、風情もなにもない「郊外」の空々しさ。ノワールらしいモノクロの強い陰影のない平板とすら感じられる画面、手持ちカメラによる不確かな動きのリアルがノワールの変質を告げている。アンドレ・ド・トスによる後期ノワールの佳作。その後、脚本のクレイン・ウィルバーはギャングが街を恐怖支配するフィル・カールソンの社会派ノワールの傑作『無警察地帯』(54)の原作脚本、バーナード・ゴードンはカルトB級ホラー『ホラー・エクスプレス』(72)を製作する。
ギャング裁判で証言台に立つ女を、道中護衛する刑事と、彼女を殺害しようと付け狙うギャング。殺し屋の顔が夜の闇に沈むアパート(映画が殺し屋の姿を示すための手管に注目)からノワールの雰囲気が立ち込める。その攻防がもっぱら繰り広げられるのが列車というのもいかにも映画的。怪しげな乗客、閉ざされた空間でのギャングとの頭脳戦、心理戦。そしてラストで明かされる意外な真実、そして映画的な、あまりに映画的なアクションによる幕引き。フェルトンによる余分なものを極力排したタイトな脚本(これで70分)、どちらかというと悪役の多いマッグロー演じる刑事の、そして憎々しい悪女ぶりのマリー・ウィンザーの存在感は強烈に記憶に刻まれるだろう。50年代から70年代にわたって犯罪映画に偉大な足跡を残したリチャード・フライシャーの出世作にして歴史的傑作。
上映期間 | 11/8(土)~12/5(金) |
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上映時間 | 作品案内参照 |
当日料金 | 一般:1,500円/大学・高校:1,300円/シニア:1,200円/障がい者・同伴者(1名まで):各1,000円 |
特別鑑賞券 | 3回券3,600円数量限定販売中 無くなり次第終了 ※ネット予約にはお使いいただけません |